ユードリナの記録【長野県立大学】

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【県大S #026】イオンモール論争<須坂>

こんにちは。「ユードリナ」に加入しました、調査担当です。

以前このようなリクエストをもらった。

長野市、商工会が大型商業施設を拒む理由と、須坂のイオンモール

たしか須坂のイオンモールについては、大学のN先生の講義でやった記憶が。N先生に相談へ行き、講義資料をもらったり自分で調べたりしてみた。

須坂のイオンモール概要

大型のイオンモールが、須坂長野東インターチェンジ付近に2025年秋ごろ開業予定。

2015年に開発事業者が須坂市へ提案したのがきっかけ。その後様々な議論があったものの、2015年12月の議会定例会で「須坂市として大型商業施設建設を支援する」と決定された。

かつて、イオンモール建設計画は2006年頃に長野市で浮上していた。しかし商店会連合会や商工会議所の反発を招き、当時の長野市長が「出店は困難」との見解を示したことで白紙となった。

 

須坂市が計画を支援する背景

長野市がかつて猛反対した計画を、なぜ須坂市は支援するのか。その背景には須坂市が抱える複数の課題がある。簡単にまとめると次の2つ。

税収

須坂市の市税は、固定資産税と個人市民税が8割を占めている。

固定資産税とは、ざっくり言うと「土地や建物を持っていると払う税金」、個人市民税は「住民税」と思えば、大きな間違いではなかろう。

何を言っているのか、よくわからない人の為の図。作るの苦労しました…

(参考)[特集2] 2022年度 決算状況の報告(1) | マイ広報紙

この須坂市の「8割」は他の自治体と比べて別段高いわけではない。

ただ、税収を上げたい須坂市にとって、軽自動車税入湯税に関連する施策よりも、固定資産税や個人市民税の増加につながる施策の方が税収に与えるインパクトが大きい。

また、須坂市の固定資産税や個人市民税の歳入額を見ると、県内の他の自治体と比べて少ない。これに関連し、歳入全体に占める市税の割合も須坂市はかなり低い。

 

大型商業施設が建設されれば、施設にかかる固定資産税の歳入が増え、市民の雇用が増えることで個人市民税の歳入も増えるわけだ。

 

生産年齢人口の減少

まあこれは言うまでもなかろう。年少人口(0歳~15歳未満)、生産年齢人口(15歳~65歳未満)、老年人口(65歳以上)という区分がある。

この区分で見た時の生産年齢人口が減少している課題だ。どの自治体でも抱える問題である。大型商業施設を作ることで、学生や子育て世代が定住しやすい地域にしよう、という目論見だ。

 

開発事業の課題(周囲への影響)

N先生の講義を受けた学生は記憶にあるだろう。須坂市で行われているこの開発事業には、いくつかの困難があった。

農業への影響

開発対象の土地は、水稲や果樹など農地である。農地を開発することによる、地元農業への影響が懸念されていた。

検討の結果、収穫される米はほとんどが自家用である点、果樹向きの土地ではない点、代替地が用意できる点などを考慮し、営農上の影響は少ないと結論付けられた。

商業への影響

地元商店街などへの影響も懸念された。大型商業施設に消費者が取られ、地元商業が衰退するのではないか、という問題である。

この点は、地元滞留率の調査により問題なしとなった。地元滞留率とは、消費者が自分の住む市区町村で物を買う比率のことである。

調査により、須坂市民は市外で衣料品などを買っているため、地元に大型商業施設ができることで市内での消費行動が増加すると考えられた。

 

開発事業の課題(土地の規制)

開発対象である土地は元は農地である。その影響で、「農振法・農地法による規制」と「都市計画法による規制」の2重の縛りがあった。

よくわからないって?僕にもよくわからん。調べてみよう。

以下は僕のざっくり解釈なので、間違ってても許して。

農振法

農業振興地域制度のこと。農耕地がガンガン宅地開発されたりしないよう、農地を守るための制度。農地を3つの区分に分けている

〇農業振興地域
 ・農用地区域(青地):農業の為の土地ですよ!他に使えませんよ!という区分
 ・農振白地地域(白地):農業以外に使っていいかもね?という区分
〇農業振興地域外
 ・そもそも農業振興地域じゃない、という区分

農地法

農地転用許可制度のこと。農振法による区分を参照した上で、農地転用を規制する

青地は原則不許可、白地は場合によって3種類、農業振興地域外は色々。

 

都市計画法

無計画な開発を防ぐための規制。土地を「都市計画区域」「準都市計画区域」「都市計画区域」の3つに分類。

その内「都市計画区域」については、さらに「市街化区域」と「市街化調整区域」に分けている。前者は既に市街地、後者は市街化を抑制すべきところだ。

(参考)農地法・農振法を詳しく解説【白地・青地・種別】【川越を例に】

(参考)都市計画法とは? 都市計画区域と準都市計画区域・用途地域などを分かりやすく解説!

 

問題解決

結局、これらの法規制による縛りは解決した。2017年に経産省所管の「地域未来投資促進法」が成立し、これによって土地利用が可能となった。

 

過去の反対運動@長野市

2006年に長野市でも浮上したイオンモール計画。これは前述のとおり大反対にあって白紙化した。ではなぜ反対運動が起こったのか。

 

やはり一番大きかったのは「地元の商業・農業が潰される」という危機感だった模様。

全国商工団体連合会の記事によれば、商店街や出店計画地となる農地の保護が大切だ、という主張だったようだ。*1

当時長野市ではイオンモール以外にも、3つの大型店の出店計画が議論されていた。しかしそれらに対して長野商店会連合会、長野商工会議所らが強く反発。当時の長野市長鷲澤氏もこれに同調し反対を表明したが、これは同氏が長野商工会議所の副会頭だった影響があるだろう。

 

大型商業施設は商店街を駆逐するのか?

長野市中心市街の空洞化を恐れた一方で、須坂市は上記のような理由で積極支援の姿勢を見せている。だが、どちらの場合でも争点だったのは「大型商業施設は商店街にとって征服者か救世主か」という問題である。

 

では、実際のところはどうなのか。

複数の論文を読んでみたが、正直言って「よくわからない」。地域ごとの特色が影響するので、「どの地域でも見られる共通の傾向」が見えにくいのかもしれない。

文献によっては、
「大型商業施設の影響で市街地の回遊性を高め、商店街へプラスの効果がある」
としているが、一方で
「大型商業施設の強い価格力などにより商店街の収益性は低下する」
という見方もある。

また、車を持っているか、価格で比較する若年層と品質・信頼で比較する高齢層、という違いもある。

 

このあたりは、消費者行動や社会学に興味がある人はぜひとも研究してみては。

 

終わりに

さて、リクエストに応えて須坂市イオンモール、および長野市での反対運動について見てきた。

大型商業施設については賛否両論がある。私たち学生からすれば遊び場が増えて嬉しいが、10年後に長野市へふと戻った時、街が寂れていたら悲しいだろう。

全員がハッピーになれる、共存していける形はどのようなものなのだろうか。