「コワレタ構想」第五章。理事長・学長の選任、私立大学の屈服について。
~あらすじ~
新大学のキャンパス案が着々と進む中、松本大は反発を続ける。一方、長野大学と諏訪東京理科大学は「公立化」という一手を打った。新大学への牽制とも取れるそれは、賛成派にとって強力な先手に見えただろう。
全寮制への疑義(2014年3月)
3月11日、県議会総務企画警察委員会にて新県立大の議論がなされた。
委員からは「なぜ寮が必要なのか」「経済的困難を抱える学生の締め出しにならないか」「短大近辺のアパート・マンションへの配慮は」などの質問が出た。
特に寮については批判的な意見が出ている。ざっくり次のとおり。
・なぜ寮という発想が出たのか
・寮へ1年間押し込めて、昼も夜も勉強させるのか
・寮の「カリキュラム」として勉強を強制しないなら意味ないのでは
・大学近隣のアパートの死活問題に影響は
・小学校跡地は校庭にすればいいのでは
・20億の予算を使う意味はあるのか
県立大学設立準備室の回答は、
・地域との交流プログラムや学習プログラムもやる
・人間関係を養う力のため
・留学生を含めた異文化交流
・大学講義の補習
・20単位くらいは寮でのカリキュラムで、という意見も出ている
・地域との連携を図る。全寮制なっても、全体の人数が増えるのでアパート等に住む人は増える
とのことだ。*1
理事長、学長の選任(2014年7月)
7月、県は新県立大学の理事長に安藤氏、学長に金田一氏を選任した。
7月17日の就任会見にて安藤氏は「この大学しか持っていないような『ワン・アンド・オンリー』を目指してつくっていきたい」と話している。
また、金田一氏は「地方の人は資質が良いがちょっと欲が無い、東京の人は貪欲で這い上がっていく。長野の居心地の良さがチャレンジ精神にマイナスに働くこともある。そのへんをうまくもっていける大学を作りたい」と話している。
私大と懇談、理解を得る(2014年9月)
その後、9月頃から安藤氏と金田一氏は県内私大との懇談を開始。長野大と清泉女学院大を訪れ、構想への理解を求めた。金田一氏は長野大で「地域貢献のノウハウをぜひ教えて欲しい」と求めた。
この時点で、松本大以外の県内私大はほとんどが理解を示している。
安藤氏、金田一氏は松本大学長とも懇談。松本大学長は「県立大の管理栄養士課程設置案を認めることは絶対にない」と強調。
私立大学の屈服(2016年6月)
理事長・学長の選任以降、新県立大の準備は着々と進んだ。2015年に教員選考が開始、高校生への説明会も開催された。
2016年6月、松本大学長が松本市役所を訪問。新県立大学について、今後は協調路線を取ると副市長に伝えた。その背景には、教育学部開設を目指す松本大が、県との協力姿勢を重視したという方針転換がある。
同年7月、松本大学長は長野県庁を訪問。新県立大学について協調する、と阿部知事へ伝えた。
「長野県立大学」開学(2018年4月)
2018年、長野県立大学が開学。初期案では2014年4月に開学予定だったが、2度の延期を経てここに至った。
4月3日の知事会見では、記者から「新入生の58%が県内から」「公立化した私大では県内出身者の割合が軒並み下落」「南信の出身者が少ない」などの声が出ていた。
なお、現在の各学年の県内出身者割合は過去記事で紹介している。
終わりに
さて、複数回にわたってお届けした「コワレタ構想」。お楽しみいただけましたでしょうか。
wikiの情報を参考にしつつ、でき得る限り元の資料を参照した。また、極力個人的な見解は挟まず、時系列でまとめたつもりだ。
最後に小話を。なぜ「コワレタ構想」なのか。
この構想は当初、短大OBOGから強く " 請われていた "。一方で、私大や県議会議員からの反発により初期構想案は " 壊れた "。このダブルミーニングから発想した。
これに気づけたあなたはすごい。では、また次の記事でお会いしましょう。