「コワレタ構想」第二章。準備委員会による初期案と、反発する私大・六鈴会について見ていく。
~あらすじ~
4年制大学構想は長野県短期大学の悲願だった。20年以上にわたって請願された構想は、知事の反対もあり進んでいなかった。しかし県知事の交代という政治的な動きにより、ようやく進展の兆しを見せる。
相関図
初期案と大混乱(2011年~2012年9月)
2011年、県教育委員会は外部有識者などからなる「県立大学設立準備委員会」と、県庁内の担当部署「県立大学準備室」を設置。
2012年9月に長野県サイドは学部学科の素案を示した。それは短大の学科を一切引き継がないものだった。「総合マネジメント学部」の中に「総合マネジメント」と「グローバルこども教育」の2学科をおく構想だ。*1
- 総合マネジメント学部
⇒ 総合マネジメント学科
⇒ グローバルこども教育学科
県内私大の反発
この素案を受け、長野大学・松本大学・諏訪東京理科大学は一斉に反発。教育内容が私大の学科と重複しているからだ。志願者の減少を危惧したのである。
・長野大学「企業情報学部」、松本大学「総合経営学部」「人間健康学部」、諏訪東京理科大学「経営情報学部(当時)」が4年制構想に反発する理由だったと思われる。
・特に松本大学の人間健康学部は、この時点で県内唯一の管理栄養士養成課程だったよう。
六鈴会の反発
県短OBOGによる同窓会「六鈴会」は、短大の学科を継承しない構想に反対した。特に管理栄養士の教育課程を設置するよう求めた。その後も、志願者の多い英語英米文化専攻と健康栄養専攻だけでも引き継ぐよう委員会へ求めた。*2
・90年代から増加する ” 短大の4年制移行 ” は、多くが看護師・社会福祉士・管理栄養士の資格取得に特化した形だ。就職に有利なので、継続して志願者数を確保できるかららしい。
・長野県短期大学の健康栄養専攻では、「栄養士」の資格を取れた。しかし「栄養士」と「管理栄養士」は異なる。「管理栄養士」の養成課程は県内で松本大学にしか無かった。
県短OBOGによる署名運動(2012年6月)
実は2012年6月時点で、長野県短期大学のOBOGは「管理栄養士養成課程」をおくよう強く求めていた。初期案発表の前に署名運動が行われている。
署名運動のHPによれば、2012年6月に計48,000名余の署名を阿部知事へ手渡した。
HPの「賛同団体・賛同者」には、県内有力者が数多く載っている。「長野県医師会」に始まり、「県議会議員」「信州大学名誉教授」などなど。
大学設置の延期(2012年11月)
これらの反発に加え、県議会や信州大学前学長らから「検討が不足している」など批判があった。準備委員会、短大、私大、県議会。それぞれの思惑が笑えるほど不一致だった。
年内には学部学科構成を確定させるスケジュールだった。しかしこれが難しくなったため、長野県は4年制大学開学を2014年⇒2017年に延期。
「議論は尽くされた」(2013年6月)
混乱の中、阿部知事は改めて2017年度内の開学を目指す方針を示した。
これには、長野県が策定した「県総合5か年計画」の期間が2013年度~2017年度だから、という背景があるようだ。
2013年5月には県内私大側と「県立4年制大学設立準備室(県庁の部署)」の間で意見交換の動きがあった。
しかし「県立4年制大学設立準備委員会(有識者会議の方)」内に異論を残したまま、委員長である和田副知事は「議論は尽くされた」として審議を打ち切った。
決定された構想案(2013年6月)
和田委員長が阿部知事に提出した基本構想は、次のような内容だった。
- 1年次は全寮制
- 総合マネジメント学部
総合マネジメント学科(教職課程併設) - 健康発達学部
こども学科(保育士課程併設) - 健康発達学部
健康文化学科(管理栄養士課程併設) - 将来は大学院も設置
管理栄養士課程への疑義
構想案に管理栄養士課程が盛り込まれたのは、六鈴会による要請があったからだ。しかしこれには反論が噴出した。
信州大学前学長は「なぜ食だけを取り上げるのか」、他の委員も「資格ありきの発想」などと反論した。
「どういう人材を育てようとしているのかわからない」という指摘もあったようだ。*3
反発のまとめ
複数の段階で、様々な方向の反発がある。少しまとめよう。
初期案への反発(2012)
私立大学:経営系・幼児教育系の学部に反発。志願者減を恐れた。
六鈴会:開学以来続いている学部学科が消滅することに反発。
準備委員会:検討が不足している。
決定した基本構想への反発(2013)
私立大学:経営系学部に反発。管理栄養士課程に松本大学が強く反発。
準備委員会:拙速な決定に反発。
次回予告
構想を快く思わない人々が、反対運動を開始。「差別化」を強調するしかない長野県に、11万の署名が迫る。
次回、「コワレタ構想」第三章。
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