大学生ユードリナの記録【長野県立大学】

長野県立大学や就活、趣味について

不倫相手はフェアリー主婦の夢を見るか?【ドリームキャッチャー】

2022年2月。長野では降雪がひとまず落ち着き、歩道にうっすらと先週の雪が残るころ。
私はとある社会人と東京のビジネスホテルで飲んでいた。

 

歳はちょうど40だったか41だったか、フリーのカメラマンをしているそうだ。あるきっかけがあって知り合った彼は、私に酒の飲み方やタバコの吸い方を教えてくれた。

 

そんな彼に「手伝ってみないか」と誘われて、2月末に東京八王子の撮影へ同行することになった。カメラマンさんの車に揺られて数時間、私たちは東京へ前乗りした。ビジネスホテルで焼酎をしこたま飲み、二日酔いの翌朝。二人して青白い顔をしながら現場へ向かった。

 

その日の撮影現場は個人経営のカフェだった。40代ほどの温厚そうな女性が出迎えてくれた。黒いエプロンをした彼女は、どうやらスターバックスの元バリスタらしい。カメラマンさんとは古い付き合いらしく、今日は常連客の主婦たちを呼んでの撮影会だそうだ。

そんな話をしつつも私の目は窓際の物体に惹かれていた。木の枠といくつかのひもでつくられたそれは、たしかドリームキャッチャーとかいうはずだ。幸運を呼ぶだとかなんとかで、以前ニュース記事で見たことがあった。

私の目線に気づいたのか、元バリスタのママはドリームキャッチャーと今日の日差し、それらから導ける神秘について何やら語ってくれた。

ドリームキャッチャー。北アメリカの少数民族に伝わる魔除け。

 

正直、私個人は100%純正のオカルト否定派である。お化けも怪談もUFOも政府の陰謀も信じてはいない。しかしそれを他人にぶつけるほど若い闘志も持っていない。
バリスタが冗談で言っているのか、軽いゲン担ぎなのか、それともマジのガチでそういう人なのかはわからないまま、私は静かに頷いていた。
私が覚えているのは、ママが出してくれたハーブティーが二日酔い回復に非常に効いた、ということだけである。

 

現場到着から30分後、騒がしい声が店前からしてきた。だいぶ二日酔いから回復していた私とカメラマンさんは、彼女らと自己紹介しあった。5名の女性たちは、みな専業主婦をしている40代50代ほどの常連だそうだ。

その後は淡々と撮影がなされた。淡々とといっても、主婦たちはハーブティーをすすりながら互いの服装や化粧について褒め合い謙遜しあいの大騒ぎであった。私のしていた撮影の手伝いが淡々としていたのである。
撮影の目的は人それぞれであった。占いの仕事を始めるためのプロフィール写真、遺影用の顔写真などなど。

一人15~20分ほどかけて十数枚の写真をとり、全員撮り終えたところで休憩となった。

 

カメラマンさんが元バリスタのママと話している中、撮影を終えたハイテンションな主婦たちも雑談していた。
「なんか今日フェアリーとんでるよね!」
「あ~やっぱり!なんかすごいいるな~と思ったのよね」
「カメラマンさんの周りもいるわよね~!やっぱりエネルギッシュなんだわ」
私は何かの身内ネタかと思い、苦笑いしながら主婦たちの方を見た。しかし彼女らの目は真剣で、楽しそうで、何かの爆笑ネタをいった雰囲気ではなかった。

彼女たちは会話中のカメラマンさんとママにも大声で声をかけ、同様の話をした。ママは激しく同意し、白いのだの青いのだのと会話に混ざっていた。カメラマンさんは「みなさんもとてもエネルギッシュで、楽しく撮影できました」と対応していた。

 

カメラマンさんは私と同様、筋金入りのリアリストのはずだ。どうして真顔で対応できるんだろう?そして主婦たちはいったい何者なんだ?今度は最近買った石がどーたらこーたらと言っている。

 

混乱していたら、カフェに新しく人が来ていた。30代前半に見える黒髪ロングの高身長で、気が強そうな雰囲気だ。カメラマンさんの個人的な知り合いらしく、ママや主婦たちへ挨拶した後着替えに行ってしまった。
黒い法被と鳴子を持って出てきたミス30代は、和風のダンサーらしい。彼女も主婦たちと同じく撮影し、ハーブティーを飲んで帰っていった。

 

その後のカメラマンさんとミス30代との会話、そして私とカメラマンさんとの会話から考えるに、彼女はカメラマンさんのオンナだったのだろう。
カメラマンさんは首都圏に奥さんと子どもがいるが、仕事のため長野県に来ている。そして長野県や首都圏を行き来して多くの場所で撮影の仕事をしているそうだ。そんな彼には各地にオンナがいるそうで、年上の奥さんにも「そういうのは外で自由にしろ」と言われているそうだ。

音に聞く”カメラマンさんのオンナ”に会ったわけだが、『フェアリー主婦』の衝撃と二日酔いのせいで特に感想は出てこなかった。

 

そんなこんなで弾丸東京旅行は終わった。
あまり他人を悪く言うのは好きではないのだが、カルト教団や星座占い、ネズミ講が撲滅されない理由を垣間見た気がしている。

 

彼女らは家事を、あるいは仕事をして、昼ドラやニュース番組を見て、石を買い、フェアリーを見るのだろう。そうした人たちは案外と身近にいて、自分とは全く違った思考を持っている。だからといって、決して悪い人たちではない。
この当たり前の事実に、何故か衝撃を受けた大学2年生の冬だった。