いつだったか、落語にハマっていた。具体的には、落語の「枕」に興味を持っていた。
落語の枕とは、落語家が本題の前にする雑談のようなものである。
中学や高校の頃、何かと大勢の前で話す機会が多かった。授業内でのスピーチ、生徒会役員としての演説。いわゆる校長先生のお話のようにはなりたくない、と思っていた。
重視していたのは、話の始め方だ。退屈で説教じみた話題ではなく、身近な雑談から始める。「そういえば・・・」と言って本題へ繋げる。聞き手が冒頭の話に共感していれば、自然と本題にも興味を持つ。この発想のヒントが落語の枕にあると思った。
ある日動画サイトで落語をきいていると、興味深い枕があった。いわく、『女性らしい仕草とはナナメである』らしい。
例えば右前に物が置いてある。普通なら右手で取りに行くが、これをあえて左手を伸ばして取る。
人の話を聞くときには、正面や真横でなくナナメ前に立つ。そして首を少し傾げる。
正面にあるものを見るときは、右か左に少し顔を向けてからナナメに目線を落とす。
落語では登場人物たちを一人で演じる。その中には女性もいる。男性キャラとの演じ分けのために、こうしたテクニックを用いるそうだ。
考えてみれば、現実世界でもよく見かける。椅子に座るとき足を揃えてナナメにする人、上目遣いの人。バラバラに見えていたものが、ナナメという括りでまとまった気がした。
私は落語家でもなければ俳優でもない。こうしたテクニックを使う機会は人生でないだろう。しかし自分に縁遠いはずの話が、今でも記憶に残っている。それほど面白い枕だったのだろう。
お先まっくらな人生、ヒーローにはなれそうもないが、今日も頑張りたい。